「先生、しばらく行くんやめよわい」
- ryoutakuan
- 2 日前
- 読了時間: 6分
先日、お電話がありました。
いわゆる「坐骨神経痛」でご来院されていた80代男性の患者様(Y.H.さん)からです。
ちょうどお尻のポケットの辺りに痛みがあり、特に畑仕事とかをしていると、
「カーーーっ、と燃えるような痛み」
がその部分に、特に左側に現れるとのことで来られてました。

他にも、両足先のシビレや右ひざの痛み、それと、朝起きた時には右脚が“あぐら”がかけなくて
「靴下が履けんのじゃわぁ」
というお悩みも。
お話をお聞きしたところ、畑といっても自宅そばにもあれば、面河にもあるとのこと。
その面河の畑には週に二・三回は通われている、と。
(この辺で、自分は「ピーン!」ときますが)
「畑の方は、なかなか放っておくわけにイカンのやわぁ」
ということで、お仕事をしながらの治療ということに。
それでも週二回のペースで頑張ってお出でになられた効果もあり、一か月ほどでお尻に関してはほとんど痛みが出なくなって、朝の靴下を履く動作もずいぶん改善しておられたのですが・・・
「先生、しばらく行くんやめよわい」
「えぇっ!どうかされたんですか?」
「いやぁな、こないだ先生とこ行った日ぃの夜中にな、急に右膝が痛ぉなって。何ぁんにもしてなかったんよ。寝とっただけやのに、のたうち回るような痛みが出て、救急に行ったんやわぁ」

心の声です。
(わちゃぁぁぁ、クレームかぁ?けど、口調はそんな感じじゃないなぁ。いつものY.H.さんやし・・・)
で、こういう時こそ落ち着いて・・・
「ぅわぁぁ、それは大ごとでしたねぇ。何かご迷惑おかけしたんじゃろですか・・・?」
「いやいや、病院の先生が言うにゃぁ・・・“じくうつう”じゃったか、“ぎつうくう”じゃとか言よったけど」
「あ!もしかして、偽痛風(ぎつうふう)じゃないですか?」
「あぁ、そう。何かそんなんじゃったわ」
また、心の声です。
(おぉ!我ながら勉強しとって良かったぁ。専門学校の時の「一般臨床」だったか、先生が言ってたのを思い出したんです。「尿酸結晶はないけど、痛風みたいに痛いんだと。で、高齢者の膝に多いんだと。)
ちなみに、日本リウマチ学会さんのHPによると
という病状です。

HP内の記述に
>好発部位は膝関節で、偽痛風の半数以上が膝関節です。それ以外には肩関節(石灰沈着性腱板炎)・足関節・手関節が好発部位です。
とありますが実は私も、十年近く前でしょうか、右の肩関節(石灰沈着性腱板炎)の経験があります。
んもぉーー、めっちゃ痛かったです。
痛みで動かせないし、ジーっとしてても超絶痛い。
寝られないんです。ていうか、寝るために横になることすら激痛で。
Y.H.さんはある意味教科書通りにお膝に。
めっちゃ痛かったでしょうね。お気持ち、ものすごく分かります。
とすると、まだ痛くて動けないから
「先生、しばらく行くんやめよわい」
ということなのかしら?と、思い
「Y.H.さん、てことはまだまだ痛みがヒドイんですか?」
すると
「いや、今は病院でお薬もろて飲みよるから、だいぶ落ち着いたんよ」
「そうなんですね。良かったぁ」
「でな、その先生に『今、なんか治療とか薬飲みよる?』て聞かれたんで、
『先生とこで電気当てよる』言うたら、
『もしかしたら、影響が無いとは言えんから、ちょっとやめてくれんか』言われてな・・・」
ガガ――ン!

それでか・・・
こういうの、結構ショックなんです。
確かに、Y.H.さんには電気治療させていただいています。
けど、膝には当ててないんです。
一瞬、反論しようかと思いました。コンマ数秒ですが。
(いや、以前の私ならY.H.さんに持論をぶつけてたでしょう。もしもぶつけるとしてもお医者様のはずなのに)
と、そこでY.H.さん。
「いやぁ、その先生にも言うたんよ。膝に当てとるワケじゃないんよ。おかげで、尻の痛みも無ぉなったいうことも。じゃけど、先生が言うにゃぁ、『けど電気じゃから、全体的な影響が無いとは言えんからねぇ』なんじゃと・・・」
ありがたいことに、Y.H.さん。私の事を案じて、かばってくれようとして下さったみたいです。

ホント、危うく喉元まで出かかっていた“持論”を飲み込むことが出来ました。
冷静に考えると、お医者様にも感謝です。というのも、お医者様の電気治療中止を求める理由は
『もしかしたら、影響が無いとは言えんから』
『電気じゃから、全体的な影響が無いとは言えんから』
というお言葉です。
『電気治療が悪影響だから』とか、
『電気治療が起した可能性があるから』とはおっしゃられてはいないんです。あくまでも
『可能性が無いとは言えない』
とおっしゃられてるんです。
今まで20年ほどこのお仕事をしていますが、お医者様の中には
「え?整骨院行くのならウチでは診ませんよ」
という先生・病院も多々ありました。

もちろん、医師資格と柔道整復師資格では、その資格取得の困難さは雲泥の差があります。
場合によっては命に係わるお医者様のお仕事と、柔道整復師のそれとでは責任の重大さは想像もつかないくらい大変だと思います。
ただ、例えば今回のY.H.さんのお尻の痛み。
病院に通っても良くならなかったので、当院に来られました。
で、良くなられました。
ここで勘違いしないでください。
決して、我々柔道整復師の方が医者よりスゴイんだ、なんて言いたいんじゃないんです。
お医者様が重視しない所に症状の原因があった場合、いくら治療が素晴らしくても、いくら高価なお薬を処方したとしても、いくらいい大学の医学科を出られてたとしても、おそらくその症状は良くならないと思うんです。
以前にも書いたことがありますが、いくらノーベル賞を受賞した人であっても美味しいラーメンが作れるとは限らないのと同じで。

お医者様が重視しない所に症状の原因がある場合、それは往々にして我々柔道整復師の得意分野なんじゃないかという気がしています。
少し話がそれました。
『可能性が無いとは言えない』
というお医者。素晴らしいと思います。
僭越ながら、自分もいつも思っています。
『無い事の証明』は出来ない、と。
自分とすると、当院の施術が偽痛風を起こすとは考えられませんが、それでも『絶対に無いか!?』という問いに対しては、自信を持って言えません。
あとはY.H.さんのご判断です。
では、どうする?
お医者様のご意見を優先されるでしょう。当然です。悔しいとか負け惜しみなんて気持ちはありません。
「先生、しばらく行くんやめよわい」
「そうですね、了解です。先ずはお膝が楽になって、また前みたいに畑仕事が出来るようになるんが先ですから。これから寒くなりますから、とにかくお体を冷やさんように気をつけてくださいね」
偽痛風の痛みから解放され、その時またお尻に痛みが現れるようなら、またお声かけ頂けるだろうなと思いながら電話を切らせていただきました。

